Interview 

異文化マネジメント最前線

日本ではなぜスタートアップのエコシステムが育たないのか?

ライター
松尾美里
カメラマン
安藤史紘
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異文化マネジメントとは何か、異文化マネジメントがうまくいかない理由、などの異文化マネジメントの課題の明確化と解明を目的として、経験者や有識者に焦点をあてインタビューを実施する連載「異文化マネジメント最前線」、第一回目のインタビューの後編です。『SONYとマッキンゼーとDeNAとシリコンバレーで学んだ グローバル・リーダーの流儀』を上梓された森本作也さんに前編では、日本企業が海外でビジネスをするにあたって感じる当時書籍を書いた際の問題意識と、株式会社エクスビジョン(http://exvision.co.jp/)での経験を踏まえ、異文化マネジメントで意識すべき点についてお聞きしました。(前編「世界の優秀なエンジニアを惹きつけてやまない会社の「異文化マネジメント」は何が違うか?」)後編ではシリコンバレーの今と、森本さんが注目されている技術、そして日本でスタートアップのエコシステムを育てるために何が必要なのかというテーマでお話を伺いました。

失敗するのは当然。失敗をシェアするシリコンバレーの文化

シリコンバレーで起業しようと決意した理由は何でしたか。

森本 作也(以下、森本):シリコンバレーはアップルやグーグル、フェイスブックなど、名だたるグローバルIT企業を輩出しており、世界中が注目している起業家のメッカです。だからこそそこで勝負したいと思ったわけです。今では、東大発のベンチャーである株式会社エクスビジョンでのCOOの仕事を優先し、自分の起業はいったん保留することに決めています。これを現地では「バックバーナー」と呼びます。キッチンコンロの後ろに置く、つまり起業で躓いても、それが無になるわけではなく、その経験が今後も活きるという考え方がシリコンバレーにはあるんです。
シリコンバレーの良いところは、誰もやったことのない新しい挑戦に対して、誰も否定しないし、失敗を恐れない文化が根づいているところ。たとえ成功して軌道に乗ったスタートアップでも、その裏では必ず多少の失敗は経験しています。日本では起業して失敗したと言うと、マイナスイメージがつきまとうのに対し、シリコンバレーでは、失敗したことは汚点になるどころか挑戦の証として評価されます。失敗するのは当然という前提があるので、失敗を最小にできるように教訓を共有し合ったり、励まし合ったりする文化があるんですね。

「シリコンバレーでは毎晩どこかでピッチコンテストが開かれ、スタートアップを支援するエコシステムがある」と聞きます。現地にいて、スタートアップを支援するエコシステムの存在をどんな場面で感じますか。

森本:ベンチャー企業の起業から自立までのプロセスが明快で前例がたくさんあり、それを支える人材・組織、経営資源、ネットワークなどのインフラは非常に整っていますね。技術パートナーやベンチャーキャピタル、そしてベンチャーに強い会計士や弁護士などの専門家などがそろっているんです。ベンチャーは大企業ほど潤沢に資金がないので、ベンチャー向けの価格を用意してくれる。オフィスを借りるにしても、ベンチャー向けに格安の条件を提示してくれるというように、ベンチャーにとって有利な条件を組んでくれるサプライヤーが非常に多い。スタートアップはもはや一大セグメントになっているからです。
また、現地にいると、新しいテクノロジーを使った開発の最前線にいる人の生の声を聞く機会が豊富にあります。例えば最近なら、VR(バーチャル・リアリティ:人間の感覚器官に働きかけ、現実ではないが実質的に現実のように感じられる環境を人為的に生み出す技術)が注目を浴びていますよね。展示会は各国で行われていますが、シリコンバレーにいると、オキュラス(フェイスブックが買収した、HMDの代表的メーカー)やマイクロソフトなど、その技術に携わっている人から生の体験談や今後の構想を聞くことができる。すると、外部にいてはわかりにくい未来の全体像がだんだん見えてくるんです。

具体的にどんな未来が見えてきたのでしょうか。

森本:VRの最初の実用例はHMD (Head-Mounted Display)です。HMDとは、両眼を覆いかぶせるように装着して、目の前のスクリーンに3D映像を映し出し、頭を動かすとその動きと位置に連動して画面も変化するというディスプレイ装置のことで、ウェアラブルデバイスの一つです。最初HMDを知ったときは、「こんなゴーグルは一部のゲーマーには広がるかもしれないけれど、一般的に受け入れられるのか?」と懐疑的でした。しかし、HMDのデモンストレーションを見たりカンファレンスに参加したりしているうちに、これがVRという巨大な流れの最初の一歩にすぎないということがわかりました。
VRのもう一つの実用例はディスクトップディスプレイで、zSpaceという会社が有名です。ディスプレイ自体は平面ですが、特殊なメガネに取り付けられたマーカーによって頭の位置を認識して、その位置から立体に見える画像を表示します。とても自然な立体画像で、その画像をつまんで、いろいろな確度から観察することもできます。


立体視ディスプレイ zSpace

HMDの次のステップはAR(拡張現実:augmented reality)メガネです。メガネの中にコンピューターグラフィックの画像が表示されて、リアルな画像と重なるんです。メガネをかけていて、パッと目の前を見るとパソコンのスクリーンやキーボードが浮かび上がる。それが、人間の知覚する現実環境をコンピューターにより拡張するARの時代です。マイクロソフトが発表したホロレンズがその代表格です。今は大きなゴーグルの形をしていますが、やがて普通のメガネくらいのサイズになるかもしれない。そうすればVRは家庭や職場に浸透するでしょう。


Microsoft HoloLens – Transform your world with holograms

技術者がその先に見ている未来は、立体ディスプレイの世界。まるで映画のスターウォーズやアイアンマンのように空間に立体の像が浮かぶという、現在のホログラフィーをさらに進化させた技術ができれば、何もない空間に3Dで人物を投影でき、まるで違う場所に存在しているかのような体験ができる、イマーシブテレプレゼンス技術。これが発展の三段階目なんです。コンピュータービジョンの分野でトップにいる学者たちは、そういう世界をVR/ARの到達点と見ています。あくまで今のVR/ARの製品は通過点だと知ったことで、HMDに熱狂する技術者たちが増えていることに納得しました。ではVR/ARがいったい何の役に立つのか、エンタテインメントや教育といった特定の分野以外の使い方があるのか、という質問にはあまり意味が無いと思います。コンピューターやインターネットが世に現れた時、今のような使われ方を正確に予見できた人は殆どいないはずです。今後、VR/ARの新しい技術が生まれ、それを駆使したプロダクトやサービスが生まれる大きな流れが作られれば、新しい価値が生まれ、世界を変えるかもしれない。VR/ARはそれだけの潜在力を持っていると思います。こういう見解にたどり着けたのは、シリコンバレーで技術者たちの最前線の声を聞いて、その技術を目の当たりにしているからですね。これがシリコンバレーにいる醍醐味でもあると感じています。

エクスビジョンの最初の製品はスマートTV向けのジェスチャーUIですが、VR/ARに適した技術の種もたくさん持っているので、この流れに乗って行きたいと考えています。

大企業とベンチャーの垣根を取り払うには?
―スタートアップイベントはその序章にすぎない―

日本でもスラッシュアジアのようなスタートアップイベントが増えていますが、起業家を育てるエコシステムが生まれつつある、と見てよいのでしょうか。

森本:これは間違いなく良い流れだと思っています。ただ、現在はどうしてもベンチャーのプレゼンやデモの場という域にとどまっている気がします。僕がよく参加しているアメリカのエンベッディド・ビジョン・アライアンス(Embedded Vision Alliance)というカンファレンスでは世界中からコンピュータービジョンをベースにしたビジネスの専門家が集まって議論をしています。そこではグーグルやnvidiaのような大企業、イリノイ大学やカーネギーメロン大学といったコンピュータービジョンで知られた大学の教授、そしてベンチャーが一緒にプレゼンやデモをするのが、ごく自然のこととなっています。基礎技術が大学で生まれ、ベンチャーで新しいイノベーションが起こり、大企業に買収されるというプロセスができているので、めざすべきゴールが見えているんですよ。日本でもベンチャー企業がたくさん生まれてきていますが、ベンチャーの世界だけで閉じてしまわずに、大手企業を巻き込んでいければもっともっと活性化すると思います。
ベンチャーだけではエコシステムは育たないんです。今後、先端技術を追求する、日本を代表するような大手企業のCTOや部長クラスの人たちが、こうしたイベントで渾身のデモをし、ベンチャーと大手企業が手を組んで一緒にイノベーションを起こしていくという流れになれば、もっと説得力が高まると思いますね。

日本でも、大手企業とベンチャーが連携し始め、オープンイノベーションも徐々に広がっていますが、それに対してはどうお考えですか。

森本:徐々には生まれていますよね。でも僕のいたカネスタというベンチャーが、マイクロソフトに買収されたとき、印象的だったことがあります。それは、買収チームのメンバーのほとんどがマイクロソフトに来る前にベンチャーにいたこと。アメリカでは人材流動性が高いので、大企業にいた人がベンチャーに転職するケースもその逆も多いし、ベンチャーが買収されて大企業の一部になることも多いので、大企業とベンチャーのカルチャーが自然と入り交じるんですよ。だから、マイクロソフトやインテルのような世界的な大企業に身を置いていても、ベンチャーの人たちと同じ目線で議論することができる。大企業の中にベンチャー経験者が入っていくというように、大企業とベンチャーの人的交流が増えていけば、スタートアップを支援するエコシステムが豊かに育っていくと思いますね。

こうした知見や人材の交流を活性化させる動きとして、事業会社が、本業とのシナジーをねらって、自己資金によりスタートアップへの投資活動を積極的に行うコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)があります。これは方向性としては正しいですね。あとは、どれだけ腰を据えて投資を続けていけるかにかかっています。ベンチャーの技術を本当に大企業が採用するという事例がいくつも生まれていくかどうかがCVCの試金石となるでしょう。例えば、マイクロソフトのHololensやインテルのRealSenseカメラなど、アメリカのIT企業の新製品には、ベンチャーの技術が必ずといっていいほど取り入れられていますから。

日本のベンチャーにとって厳しいのは、日本の大企業に技術が採用されたり買収されたりするという道がまだそこまで開かれていないことです。ベンチャーにとって、IPOだけでなくエグジット(買収)も立派な成功なわけです。ところが日本の大企業はベンチャーの技術の採用に及び腰なところがある。

森本 作也

PROFILE

森本 作也(もりもと さくや)

神戸大学経済学部卒業、ソニーに入社し、サウジアラビア、アラブ首長国連邦に駐在。その後、休職し米国スタンフォード大学経営大学院(MBA)に自費留学。修了後マッキンゼー&カンパニー東京オフィスに入社し、モバイルを含むハイテク関係のプロジェクトに従事。フィンランド駐在を経験した後、シリコンバレーに本拠を持つベンチャー、カネスタに入社。カネスタのマイクロソフトへの売却後、DeNAに入社。北米子会社であるDeNAグローバルにて新事業立ち上げなどを担当。DeNA退社後、東大情報理工学系石川・奥研究室のスピンアウトであるエクスビジョン株式会社取締役に就任。 著書に『SONYとマッキンゼーとDeNAとシリコンバレーで学んだ グローバル・リーダーの流儀』

松尾 美里

PROFILE

松尾 美里(まつお みさと)

日本インタビュアー協会認定インタビュアー/ライター。
教育出版社を経て、本の要約サイトを運営する株式会社フライヤーにて要約の執筆、編集、経営者や著者のインタビューを行う。(https://www.flierinc.com/features/list
起業家や人事専門家へのインタビュー記事も執筆中。ブログは「教育×キャリアインタビュー」(http://edu-serendipity.seesaa.net/)

上場企業役員OB、グローバル企業のエグゼクティブ出身の
グローバルビジネスのエキスパートが、
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