Interview 

日本のソフトパワーを輸出する――「最初から世界」を目指した、アレックス株式会社の今

ライター
松尾美里
カメラマン
安藤 史紘
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高度経済成長期、人口増による内需の拡大に伴う規模の経済から、安定した国内需要を背景にした工業製品の輸出を通じ、経済成長を遂げてきた日本。
ところが現在、製造業が次々と新興国に軸足を移す中、国内製造業の多くはグローバル展開に苦戦しているといえます。

そんな中、資本力のある大企業中心に行われてきた海外展開にも変化が生じています。中国を中心とするアジア圏からのインバウンド需要や、越境ECの市場規模の増加を受け、一個人や中小企業においても、日本の生活文化を輸出していく取り組みが増え始めているのです。とりわけ、大量生産とは一線を画した職人芸による、飛びぬけた価値のある商品、そして日本オリジナルの商品を、付加価値の高いブランドへと育て上げ、販売していくことは、日本が国際社会で確固たるプレゼンスを築くうえで非常に重要だといえます。

2010年に「最初から世界市場へ」という行動理念を掲げ、日本の生活文化製品の輸出や、海外へ進出しようとする挑戦者たちの支援を行ってきたアレックス株式会社。創業者であり代表を務める辻野晃一郎氏に、日本のソフトパワーの海外展開の現状と今後について伺いました。

※左図は辻野晃一郎氏の近著『「出る杭」は伸ばせ!』(2016年文藝春秋)

「日本人は本来イノベーティブ」という事実を世界に知らしめる

アレックスの起業に込められた当初の課題意識は何でしたか。

辻野 晃一郎 氏(以下、辻野):グーグルやアップルなどの海外の企業が世界で勢いを伸ばす中、インターネット後の日本では目を見張るイノベーションを特段起こせていない。そんな現状を打破し、日本に元気を取り戻したいという思いから起業に至りました。起業当時の2010年は、デフレが続き、リーマンショックの余波で、日本経済全体が低調で見通しも暗かった。とりわけ日本の生活文化産業は極めてレベルが高いにも関わらず、内向きで、世界へのアピールが上手くない。例えば、フランスやイタリアでは、各地方都市がファッションやワイン、食などの独自ブランドを生み出し、世界から高い評価を受け、文化大国として尊敬を受けています。日本にも、フランスやイタリアに勝るとも劣らない数々の伝統的な素材や技術があるにもかかわらず、その価値が国内に埋もれたまま衰退しかかっています。

たしかに、日本の伝統工芸品は世界でもっと評価されてもいいのではないかと思います。

辻野:伝統工芸品をつくりだす主な担い手は、個人事業主や中小・零細企業であることがほとんどです。彼らは大企業と違って資本力がないし、海外展開の経験もないため、ECサイトの構築・運営といったネット上の販路拡大のリテラシーもそこまで高くありません。そこで、海外での流通に関するバックヤード的なところを、テクノロジーの力を駆使してアレックスが黒子として一手に引き受ければいいのではないか、と思ったのです。裏方業務をアレックスが代わりに行えば、彼らは素晴らしい商品をつくるという本業に専念できる。そうすれば生活文化産業を日本の輸出産業に育てることも夢ではないと思いました。

そんな想いからアレックスの事業の柱となる「ALEXCIOUS(アレクシャス)」が誕生したのですね。

辻野:「アレクシャス」は優れた日本の商品をアピール、販売するオンラインコマースサイトです。最初から世界市場に打って出るという方針を掲げていたので、リリース時に用意したのも英語のサイトでした。現在は英語と日本語両方に対応していますが、日本語はあくまで対応言語のひとつという位置づけですね。また、決済手段も世界で使っている人が多いペイパル決済を採用しました。起業当時の日本で、グローバルに対応したECサイトはアレクシャスが初の試みだったと思います。30品目程度からスタートして、現在はインテリア、テーブルウェア、ヘルス&ビューティなど3000点ほどに拡大しており、世界約50カ国で購入されています。

「価値あるものを安売りするな」――最初から世界市場に打って出る辻野氏の原点

最初から世界の市場をめざすという発想はどんな経験から培われたのでしょう?

辻野:世界に打って出るという考え方を持つようになったのは、ソニーでの経験の影響が大きいように思います。トランジスタというものが発明されたときに、民生のトランジスタラジオを大手企業よりもいち早く商品化したのは、当時ベンチャー企業だったソニーなんですよ。しかも、最初に売ろうとした市場が日本市場じゃなくてアメリカなんですよね。ソニーの創業者の一人、盛田昭夫さんが、トランジスタラジオをカバンに詰めて渡米し、売りに回った。だからソニーっていうのは最初から日本市場じゃなくてアメリカ市場に打って出た企業なんです。最初から国内ではなく世界の市場を見据えて行動する。そんな精神がソニーにいる間に自然と培われていったのかもしれません。

これまでは日本国内を市場にしていればよかったのですが、それは過去のお話です。日本語や日本国内の決済にしか対応していないと、世界中に73億人いる中で、1億2000万人程度としか取引ができない。まして人口減少が続く中、それでは立ちいかなくなるのは明らかです。そこで、英語対応のグローバルサイトをつくり、英語圏への購入動線をつくることで、海外へのリーチを一気に増やすことが可能になります。世界のインターネット人口は現在約30億人と言われていますが、英語対応にするだけで18~20億人を相手にできる。日本だと楽天市場はECショッピングモールの成功事例ですが、世界を相手にするアマゾンやアリババと比べると取扱高はおよそ20分の1と、歴然とした差があるのです。

そんなに差があるのになぜ日本市場だけを攻めるのでしょうか。

辻野:ロジカルに考えると世界を攻めるのがいいと、すぐわかることなのですが、まずは勝手のわかる日本市場を攻めようという発想になりがちなんです。ですが、「日本で成功してからアジアを攻めて、その後欧米へ進出する」というアプローチはもはや時代遅れ。最初からパイの大きい英語圏、中国圏を狙っていくことが大事になります。

また、もともと私は理系出身で、大学時代に教授から「技術を安売りするな」と言い聞かされてきました。価値あるものは、それに見合った対価を受け取るべきだと。しかし、今の自由主義経済は過当競争が行き過ぎてこの発想が抜け落ち、安売り競争に翻弄されています。そのせいで正当な利益を出せずに疲弊して、デフレからも脱却できていない。そんな時代だからこそ、商売の原点に戻り、「価値あるものを安売りしてはいけない」という考えを貫くことが大事だと考えているんです。

「価値あるものを安売りするな」と。

辻野:はい、いずれは「アレクシャスだから買えるもの」をどんどん仕入れていき、取引先の大多数を占める中小、零細企業の作り手が持続可能にきちんと評価を得られるようにしていきたいですね。私たちの取引先はみな、製品力が高く、職人の方々の想いが込められていて、「ぜひとも応援したい」と思うものばかり。本来なら海外に「これはぜひほしい」と思う潜在顧客はたくさんいるわけで、そこにリーチできるかどうかが大事になってきます。今後も、アレクシャスがリブランディング、リデザインにももっと関わっていき、日本が誇る生活文化産業に現代のセンスを取り入れながら、より効果的なアピールにつなげたいと考えています。

辻野 晃一郎

PROFILE

辻野 晃一郎(つじの こういちろう)

プロフィール:辻野 晃一郎氏
福岡県生まれ。1984年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了し、ソニーに入社。1988年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオなどの事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社し、アレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長兼CEOを務める。また、2012年4月より早稲田大学商学学術院客員教授。2013年10月より IT総合戦略本部・規制制度改革分科会構成員。2016年6月より神奈川県 ME-BYO サミット神奈川実行委員会アドバイザリーメンバー。
著書に『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』(2010年新潮社、2013年新潮文庫)、『成功体験はいらない』(2014年PHPビジネス新書)、『リーダーになる勇気』(2016年日本実業出版社)、『「出る杭」は伸ばせ!』(2016年文藝春秋)など。

上場企業役員OB、グローバル企業のエグゼクティブ出身の
グローバルビジネスのエキスパートが、
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