Interview 

世界で活躍する人はどんな戦略思考をしているのか?

世界で顧客を作るには。 「付加価値」を生むためのリサーチと、日本企業が取るべき手法とは

ライター
GBIJ編集部
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企業の海外進出において重要になるのが、自社の技術・プロダクトがどのように海外で評価されるのかという点である。日本国内で評価が高いものでも、海外では価値を感じてもらえず、早々に撤退したという大手企業の事例も聞かれるなか、必要なのは事前の徹底した市場リサーチと価値の出し方ではないだろうか。
同時に、市場規模の予測やマーケットの新規開拓など、日本企業ができる打ち手は様々である。前回の記事「マネジメント人材が足りない?海外進出に潜む「誰がやるんだ」問題」に引き続き、経営共創基盤(IGPI)取締役の塩野誠氏に、海外進出におけるマーケティングと価値設定の重要性について語ってもらった。

マーケットの基本は、奪うか広げるか

ビジネスモデルの目的は、顧客を創造すること、つまりお客さんを創り出せるかということです。お客さんを創り出すことで新しいマーケットを作るか、誰かのマーケットを取るか、という話になります。
そのため、一つには事業開発において自社の商品、サービスが日本の外に出て行ったとき、競合他社がいるけれども自分のところの商品・サービスの方が何らかの優位性があり競合製品が代替可能だと、「スイッチング」が起こっていきます。スイッチングとは、こっちのほうが良いと思ってもらえて、自分のほうに乗り換えてもらうことです。

ターゲットの区分としては、富裕層とこれから所得が上がるような中間所得層と一般大衆、この 3 区分が考えられますか?

所得もそうですが、それより先に見るべきが人口動態。マクロの人口動態はやはり大きな指標となり、嘘をつかないとされています。しかし一方で、予想よりもかなり早く人口ボーナスが消えていく国もあります。新興国において現時点では中間層の消費量が目立っていても、このままいくと早い段階で減少していく国もあります。中国なども日本を追って高齢化するという予測もあるので、人口動態は注目すべき要素の一つとなります。
ここで、日本の企業経営者は国単位で話をしがちですが、都市単位で議論すべきです。インドや中国など同じ国でも都市ごとに全く違うことも珍しくありません。都市単位で見てその人口動態がどうなっているかというところは対個人、Bto C ビジネスでは重要です。

拡大するマーケットに身を置くこと

地球儀で考えれば、「あの国のこのマーケットは、これを投入すれば獲れる」という考え方をします。企業であればそこにお金を投資することによってリターンを得られる。お金を投資できない個人であれば自分で働きに行けばいい。そういう考え方なんです。
個人で行った例では、私の友人がインドで始めた寿司のデリバリーです。そもそもインドには寿司のような新鮮な生ものを輸送する手段がなく、普通は寿司のデリバリーを始められるような環境ではないとされています。しかし、同じインドでも、デリーとバンガロールでは違うなど、「インドだから無理」と決めつけるにはあまりにもったいない。

また本人も、「インドの IT エリートは高等教育を受けて世界各国を回っている人が多いから、いつか寿司というものにもだんだん慣れる。そうなれば、いつの日にか寿司を食べるだろう」と考えて、その波に賭けているんです。
ビジネスモデルというのはさっき申し上げたように、パイが一定であれば誰かのパイを取るしかない。パイ自体が広がっているのであればそこにいればいい。
そのどちらなのかという話です。インド人がどんどん寿司を食べるようになりパイ自体が大きくなっていくのであればいればいいんです。

実際問題としてアメリカでも、少し昔は「生の魚を食べるなんて野蛮人なんじゃないか」という時代もありましたが、現在ではホールフーズや大学の学食などでも寿司のパックが当たり前のように販売され、その内容も独自の発展を遂げています。マーケットが拡大し、そこでパイが広がるのがわかっているなら、そこに賭ければよいのですね。

そもそも日本が恵まれているということを忘れない

ただやはり、経営者としては、そもそも日本市場自体がかなり恵まれていることを念頭において海外市場を見ることが先決です。日本はすごく大きな国なので、日本より人口がいる国は少なく、ヨーロッパ諸国のほとんどの国は日本より人口が小さいです。そのため、例えば ASEAN のタイで稼ぎたいと言っても、タイの GDP は神奈川県と同じですから。マーケット自体で考えれば、タイのなかでバンコクだけを見たら、神奈川県のどこかの市という規模です。このように、日本自体が大きくて成熟したマーケットであるため、「なんで同じことができないんだ」と考えているなら、それはもう期待値としておかしいのですね。サイズが大きくないですし、さらには現地の顧客のリテラシーからしても、こちらの付加価値にそこまでの高い価格を払ってくれないかもしれない。

他方、付加価値でいえば信じられないような対価を払ってくれる人もいます。ある出張料理人は、アラブの王族やアメリカのスター経営者から、「バケーションに同行して二週間料理を作ってくれ」と依頼されるらしいです。本物の和食を二週間作るとか、二ヶ月のバケーションでずっと作るとかのサービスにいくらでも払う人がいるわけですね。これは日本では信じられないようなことですし、出張料理人自体がすごく大きな付加価値だと言えます。

徹底的なリサーチに必要な、外からの目線

技術を持っていると自負していて今後グローバル展開する会社にありがちな問題点はどのようなことですか?

一言で言ってしまうと、リサーチ不足ですね。世の中に本当に競合がいない商品というのはほとんどありません。どうしても似た商品、類似品というのはあるでしょう。そもそも「うちは素晴らしいんですよ、競合がいないんですよ」というのは、ほとんどの場合はリサーチ不足の部分が大きいです。そもそもそれを使っていないとか、スイッチングをする気持ちがないとかではないでしょうか。それを理解した上で提供する付加価値を磨き、対価に変えるべきです。

また、サービスに関しては、そもそも「お金の取り合い」ではなくて「時間の取り合い」をしていて、もう個人の時間の取り合いの中に入っていけない可能性もあります。ある一定まで行かないと勝ち負けがわからないし、勝ち負けがなぜ起きたのか分からないようなものもあります。

例えばメッセンジャーアプリ。LINE、What’s app、Viber などがありますが、どの国が何を使っているかというのはバラバラで、なぜその国でそのアプリがトップシェアをとれたのかも結局本当のところはよくわからない。理由は様々でしょうが、ある程度の寡占までいくともう取り戻せないことは事実です。取り合いで勝負がついてしまって手遅れになるくらいなら、やるかやらないか慎重に考えるより、とりえずやってしまったほうが早いということもあります。

マーケティングは「お宅訪問」からはじめよ

多くの場合は日本で作った商品・サービスを海外に持って行き、修正を加えて現地向けにしていくのですが、実際にはかなり違うことがあります。
例えばスピーカー。日本でスピーカーというと家の中に置きますよね。ところが南米だと、そもそも外で使用するもので、家の外向きに設置するんです。家の外に音楽を流して、その前で皆が踊るんですね。同じスピーカーでも、立て付けが全然違うわけです。

有名な事例としては、冷蔵庫の中身。各国で全然違います。「ある国では冷凍用の大きなピザをそのままいれられるスペースが絶対に必要だ」という特性を調査し、製品を改良して現地の特性に合わせなければいけません。
そのために必要なことは、その場所の「お宅訪問」をとことんやること。個人消費者向けの商品・サービスであれば、お宅訪問でどういうニーズがあるのかということを徹底的に知る必要があります。
また、現地調査の結果、日本ではあまり使われない商品でも、進出先の特性に照らすともしかしたらその国では使ってもらえて新しいマーケットが創造される可能性が分かるかもしれません。

その付加価値は、現地で通用するか?

B to B であっても顧客にヒアリングを行ない、どういうニーズがあるか、どういうものを使ってもらえるのか、「競合他社の製品はこうだけど自分たちの製品はこうだ」という優位性を付加価値と認めてもらえるか、それが付加価値であればいくら払ってもらえるのか。こうした話をしていくことがビジネスモデルを作るということです。
例えばアップルの iPhone の部品の一部は、中国の工場のラインで作られていますが、iPhone を作っているラインと iPhone のコピー(模倣品)を作っているラインがすぐ近くにあったりすることがあるんです。言ってしまえば両方「本物」なんですね。でも前者には、アップルがデザインしたデバイスという、これまでに培った優位性があり、それが付加価値となるため、高い価格設定が可能になるのです。

逆に、日本に入ってこようとしても、付加価値が生まれない例もあります。
わかりやすい例がサーモスタット。アメリカの家屋はセントラルヒーティングが多く、家全体に熱が通っていてそれで部屋を温めているんですよね。各部屋にはサーモスタットと呼ばれる温度管理装置が付くのですが、nest という企業はこのサーモスタットを全部デジタル化して、外からコントロールやモニタリングできるようにしたんですね。nest は「iPod」をデザイン・設計した人が作った会社で、Google に 3600 億円で買収されたほど評価が高いんです。ところが、その nest が日本に入ろうとしても、そもそも日本にサーモスタットがありません。この場合でいえば、アメリカでは参入のフックになり、付加価値が高かったことが、日本ではまったく付加価値にならなかったというわけですね。

やはり各国ごとに特性が違うし、何が付加価値と感じるかは違います。だからその国にとっての付加価値とは何なのかという話になるのです。
また、国ごとにビジネスモデル上の外資規制があったり、制度上できなかったりという場合もあります。イスラム教国では「社会通念的にこの商品は出せませんね」ということもありますし、慣習や規制にどう適応するかという点を考えなくてはいけません。

結局自分たちの強みがどこにあるかということが重要なので、当然ながら、3C を考えましょう。3C とは「コンペティター」と「カスタマー」、そして「カンパニー」とされていますが、これは本当はカンパニーではなくて「ケイパビリティ」なんです。
「ケイパビリティ」とは言い換えれば、自社は何ができるのか、自社の本当の付加価値は何なのかということです。自分たちのモノづくりが強いと思っていても、外から見れば「モノは大したことはないが、とにかく営業が強い」ということもあるかもしれません。外からの評価がどこにあるかを見誤らないことです。
その付加価値が通用するか否かという議論をしていくべきです。
今後日本企業が大きな視点でやるべきことは、こうした価値を、顧客から出てくる価格設定で売ることです。
最終製品をつくる際に、日本のものづくりの悪い癖は「コストを積み上げていくと 1000 円になるから 1100 円で売ろう」と考えるところです。そういうコスト積み上げの価格設定ではだめです。そうではなく、「2000 円で欲しい」と言われたらもう 2000 円でいいでしょう。顧客が 2000 円でも 3000 円でも買うというのならそれが対価です、そこを価格決定の根拠とするのです。

塩野 誠

PROFILE

塩野 誠(しおの まこと)

株式会社 経営共創基盤(IGPI)取締役マネージングディレクター・パートナー(共同出資者)。IGPIシンガポール CEO。
国内・海外にて企業・政府機関に対して戦略立案・実行のアドバイスを行ない、レポートのみのコンサルティングに留まらない実行までのサポートを提供。また、企業投資も精力的に行なっている。クライアントの本質的な目的達成の為にあらゆるテーマに取り組み、事業開発、企業提携やM&A、企業危機管理の実績を数多く有する。シティバンク、ゴールドマンサックス、起業、ベイン&カンパニー、ライブドア等を経て現職。政府系実証事業採択審査委員、人工知能学会倫理委員会委員等を務める。
慶應義塾大学法学部卒、ワシントン大学ロースクール法学修士。
著書に、『世界で活躍する人は、どんな戦略思考をしているのか?』(KADOKAWA)、『東大准教授に教わる「人工知能って、そんなことまでできるんですか?」』(松尾豊との共著、KADOKAWA)、『リアルスタートアップ ~若者のための戦略的キャリアと起業の技術』(集英社)等がある。