Interview 

世界で活躍する人はどんな戦略思考をしているのか?

マネジメント人材が足りない?海外進出に潜む「誰がやるんだ」問題 ~株式会社 経営共創基盤 塩野誠氏に聞く

ライター
GBIJ編集部
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マネジメント人材不足を解決する3つの方法

マネジメント人材不足に対する策として、3つの解決法があります。

若いうちに子会社を任せる

まず1つ目は商社などが始めた方法ですが、「ある人材をキャリアの途中で子会社に出して、子会社の経営を担当させ、経験を積ませて本社に戻す」というものがあります。それを国内でやるというやり方もありますが、海外で苦労させてみてうまくいったら国内に戻すという方法もあります。
会社としては若いうちに海外に出して、人為的にでも「びっくりさせること」が必要です。文化や商習慣が「こんなに違うんだ」と分からせて、戻って来させないといけない。そういう意味では、「グローバル人材になりたい」と言う新卒就活中の学生が思っているほど、世界全部がニューヨーク・ロンドン・東京のような都市じゃないですからね。それに、ニューヨーク・ロンドンだって東京に比べたら利便性は劣り、コンビニだって24時間開いていないですから。まずは日本や東京が特殊だということ、特に人材・マインドセットが全然違うというのは理解する必要があって、そういうことを体で学ぶ必要というのはありますよね。

必要な業務の習得期間を持たせる

2つ目は、中途半端な専門性で海外に出さずに、日本での専門性の習得の期間を設けることです。事業開発とは事業ドメインを拡げることです、それは地理的、または製品・サービスかも知れません。地理的拡張の際に日本以外の国が入ります。その成功確率を上げるにはどうしたらいいか、それが問いなんです。日本で例えば「この工作機械に関しては100%分かっており、そのことは勉強しなくていい。海外でやるべきことは、この工作機械について皆に教え、マネジメントすることだ」と、既に専門領域が確立している人ならば、現地のマネジメントスタイルや文化を学ばせてマネジメントをやらせたいと考えます。それを機械の知識もなく、マネジメントスタイルも全然違うというところに行かせるのは二重苦であり、成功確率が下がります。

言い換えると、業務は分かっていないけど現地語は完璧な人と、業務は完全に分かっているけど現地語の出来ない人と、どちらが良いですかという問いなんです。たいていの場合、業務が分かっていたほうがいいですよね。
当然ながら「語学屋」よりは本業の実務がわかっている人間の方が最終的に現地でも信頼を得ることが出来ますし、価値も提供することが出来るものです。よく経営者から「語学の出来るプロを中途採用した方が良いですか?」と聞かれますが、海外と日本のキーパーソンをつなぎ、社内リソースを最大限に使えるような「借り物競争」が得意な社内人脈のある人間こそ海外に行かせるべきなのです。それを踏まえて中途採用も考えていただきたいと思います。
さらに言えば、コーポ―レート部門やバックオフィス側の話、例えば海外で日本との管理会計のやり取りをするような話で、日本でシステムを動かしていて、そのシステムを接続して、海外の会社のKPI管理、管理会計上のモニタリングをしたいとします。こうした際にはたとえ現地に行かずとも電話でもメールでもありますので、コミュニケーションを密にしていき、しっかりと論点整理した上で日本と海外の専門知識のある担当者が実際に会って話せばたいていのことは進みます。お伝えしたいのは闇雲に言葉の出来る人を現地に行かせれば良いわけではないということです。語学より業務での専門性を優先すべきです。

外部の力を借りる

3つ目は、自社以外の外部の力を借りることです。
例えば会計や法務の専門家を中途採用して社内で育てて連れていくのか、外部のコンサル、エキスパートを雇うのか、という問いに対しては基本的にどのくらいの期間で考えるのかという観点が必要です。最終的なゴールはもちろん「全て自社内で」やることです。ただ、立ち上げの時期や、立ち上げて平常なオペレーションにもっていく時期において、外部の手助けを借りるというのはよいでしょう。そのときに、外部のアドバイザーやコンサルタントの人間から自社のスタッフが学び、自社のノウハウにしていくというのは絶対に必要です。
大事なのは、それをどのくらいの期間でやるかということ。最初の事業開発のときに期間設定とマイルストーン、半年でこれをやって1年で何をやっていって、2年で何をやっていって……ということを決めるんです。プロジェクト開始時に前提条件やKPIも決まっているはずですので、それを見つつ軌道修正していく、その中でダラダラと続けず撤退戦略も予め検討しておくのです。
もちろん上手くいかないことはあります。上手くいかなかったらやめるのか続けるのかを判断するべきです。それさえやっておけば、ダラダラと損失を出し続けるということもなくなります。

交渉力を高めるために準備すること

大企業などは特に現場責任者が決裁権を持っておらず時間がかかるという話はよくありますが、中小・ベンチャーでいきなり海外進出してしまうときの問題はありますか。

中小企業には、そもそも体力的にコストをかけられないという問題があります。先進国、新興国によって違いますが、やはり現地で登記や規制対応をしたり、現地で契約をする場合には、リーガルコストをかけるべきなんです。
本来はもっと詳細に調査し、現地の専門家を雇うというコストをかけず、なんとなくやってしまっている事例も散見されます。その結果、法的に定めたつもりの契約に効力がなかったケースがあります。大事なところをケチって事故になる確率はベンチャー企業のほうが高いです。会計を適当な人に頼んでしまって、あとから調べると適切な会計処理、税務処理になっていなかったケースもあります。バックオフィスコストの軽視ですね。労務や会計にコストちゃんとかけられないがゆえに起こる事故が散見されます。

また、新興国に言えることなんですが、そもそも法的な予見可能性が低いんですね。予見可能性とは、「Aをしたら法律違反ですよ、でもBなら大丈夫ですよ」と予め見通せるということです。ただ、「Aをしてもどうなるか分からない、その時の行政によります」というようなことがいくらでもあります。
税務にかかわることでは、何年も前にさかのぼっていきなり課税されたりするということがあり、新興国では日系企業の過去の税務処理を政府当局に狙われることがたくさんあります。
そのため、法的予見可能性が低い国こそ実務的な調査すべきです。商取引においても、お金を渡すとか渡さないとかに関しては、本当にお金をもらうまでは誰も信じられないですし、本当にお金を渡したら、その対価をもらうまで誰も信じられません。そういったところが全然先進国とは違うため、支払はモノを見てからといった物理的なリスクヘッジが必要なのです。そういうことは痛い目に遭ってみないと分からないんですよね。

リーガルコストをかけていても、次は海外での日本人の交渉力が弱点となります。基本的に交渉の場において最初にびびって良いことは一つもないんです。ニューヨークやロンドンでハーバードやオックスフォード出身のビジネスパーソンと対峙して交渉すると、途端にビビってしまう日本人が多いんです。しかし、我も人間、彼・彼女も人間ということで、意思決定のエンドースメントも含めて可能な限り交渉前に準備をして、権利を獲得してくることに固執するだけというシンプルな話なのです。
強い交渉のために重要なのはやはりエンドースメントです、本社から「ここからここまでは自分で決めていいよ」という交渉権利をもらっておくこと。「本社にもう一回聞かないと」と言うのでは、交渉を自分のペースで進めることが出来ずに弱くなってしまうんです。そういう場で、相手よりも交渉範囲を広くもらっていれば、「こういう条件ではどうなんだ」と言える打ち手を増やせます。それだけで、交渉の運び方はずっと有利になるのです。
なお、米国の大学などでは交渉、「ネゴシエーション」というものが一つの専門分野として確立されており、授業もあります。交渉相手の提示より良い条件の代替案をBATNA(Best Alternative To a Negotiated Agreement)と言いますが、BATNAを持つことで交渉を有利に進めることが出来る、「ネゴシエーション」ではそうした内容が整理されています。相手が「こういう考え方をするんだ」と知ることは、相手のカルチャーを知るという意味でも勉強して臨むべきことであって、勉強しないという時点で少し負けてしまっています。

交渉において相手の「はったり」を見破る術はありますか。

例えばM&Aの交渉を極端に話せば、まずは2倍スタートです。例えば売り手は1000億円で売ろうとしていても「2000億円以下はないね」と言ってくる。こっちも2倍スタートでくるな、と思っているべきです。そういうお作法なんです。交渉も法的拘束力を持つ書面に条件を落とし込んでいなければ、最後のサイン前に値切られるかも知れない。そういう世界なんです。そこにおいては、感情と交渉というのは完全に切り分けておくべきですし、感情自体も交渉の過程でうまく使う必要がある。
ひとつ大切なことは、交渉ではテーブルを立つ勇気が必要だということです。1000億円で買おうとしている際に2000億円と言われたら「それはないね」と言って、その場で席を立つ素振りをするんです。一度その場を立てる、断れる。その程度の交渉権限をもらっていないと、取引をまとめるほうに思考が行ってしまって、「いいです、1900億円で」と言ってしまう。でも2000億円と言われた時点で帰ろうとすれば「まあ、待て」と言われる。経験上、そこで多くの人はやっぱり席を立てないのです。
冗談みたいな方法ですが、自分の主張をねじ込むときに、強引にでも握手をしてしまう。握手をはねつけられる人はあまりいません。そうされたら日本人には握手してしまう人もいますし、そうしたら事実が生まれてしまいますからね。これはハードな交渉を経験した人ならわかると思います。

また、口頭の合意というのもありますが、MOU(Memorandum of Understanding )という覚書を交渉の過程で交わしていくことが有効です。交渉を戻らせないということは極めて重要で、「ここからここまではコンセンサスになりましたよね」ということをその場でその都度書面に落としていきます。戻らせないために決定事項をMOUに書いて、両者がサインして、MOUが増えていくイメージです。最後にMOUをベースに契約書を作成する。これもやり方で、それがないと以前の議論を蒸し返されたり、最後に価格が変わってしまったりします。

撤退を判断できることが、経営者の条件

昨今、我々の仕事で中国における撤退コンサルというものがあります。どうやって店仕舞いするかということですが、工場や店舗を閉めてしまったほうがお金がかかるということもあり得るんです。リストラにもお金がかかります。よく新聞などで目にするとおり、退職金などで莫大なお金がかかるんです。

非常に難しいですが、経営者は好調の時こそ人員整理に手を付けるべきです。会社が一番好調の時に筋肉質になれるかどうかというのがすごく肝で、筋肉質なときなら退職金も多く出せるわけですから。
好調のときに早期退職に多額のお金を積んで、将来を見据えた若返りや新陳代謝を図れる経営者こそ敏腕です。逆に業績が悪ければ悪い時ほど退職金も出せませんし、従業員とも揉めます。

海外での事業開発においても、事業を続けるか否か、人を削減するか否か、拠点を畳むか畳まないか、大きな判断をしていくことになります。だから、最初に撤退基準を決めておいたほうがいいですね。一番お金がかかってしまうのが、だらだらと鳴かず飛ばずに事業を続けて、そのうち日本からも忘れられるというパターンです。

経営者からすると海外進出というのは、新しく事業を拡げることです。一方で、海外に出たけれどもうまく行かず、海外子会社を売却することもあります。
経営者の仕事のほとんどの部分は、グローバルに事業環境を見据えて事業ポートフォリオを組み替えることなんです。だから事業ポートフォリオにおいて経営者は、これは海外で販路や生産拠点を増やした方がいいという拡大を考えることもある。一方で「いま海外子会社は好調だけど、きっと2年後には市場は縮小するだろう」と考えて、好調な時に売却することもある。これは投資家が自分の資産ポートフォリオを環境に応じて入れ替えるのと近似です。
事業ポートフォリオを入れ替える判断を上手くやっていくこと。経営者の仕事はここにあるんです。

〜後編に続く〜

塩野 誠

PROFILE

塩野 誠(しおの まこと)

株式会社 経営共創基盤(IGPI)取締役マネージングディレクター・パートナー(共同出資者)。IGPIシンガポール CEO。
国内・海外にて企業・政府機関に対して戦略立案・実行のアドバイスを行ない、レポートのみのコンサルティングに留まらない実行までのサポートを提供。また、企業投資も精力的に行なっている。クライアントの本質的な目的達成の為にあらゆるテーマに取り組み、事業開発、企業提携やM&A、企業危機管理の実績を数多く有する。シティバンク、ゴールドマンサックス、起業、ベイン&カンパニー、ライブドア等を経て現職。政府系実証事業採択審査委員、人工知能学会倫理委員会委員等を務める。
慶應義塾大学法学部卒、ワシントン大学ロースクール法学修士。
著書に、『世界で活躍する人は、どんな戦略思考をしているのか?』(KADOKAWA)、『東大准教授に教わる「人工知能って、そんなことまでできるんですか?」』(松尾豊との共著、KADOKAWA)、『リアルスタートアップ ~若者のための戦略的キャリアと起業の技術』(集英社)等がある。