Interview 

"ポスト・ミャンマー"時代の海外進出戦略を探る①

中国、インド…海外ビジネスの本当のリスクとは? ~APEC/ABAC元日本代表 相原元八郎氏に聞く

ライター
荒木勇輝
カメラマン
安藤史紘
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「日本式経営は今後も歓迎される」

今後、日本企業は海外進出戦略をどのように考えていくべきでしょうか。

「これまでの日本企業の進出の仕方に関して、良い面は継続していくべきだと思います。例えば日本企業が教育熱心なことは、アジアの多くの国で知られており、そのことによって良い印象を持たれています。現地の雇用を生み出す、現地の人の技術力を高める、そしてその人たちが将来は現地企業の担い手にもなっていく。ただ人件費が安いからその国に進出するのではなく、その国の経済成長にもなることをする。現地の労働市場で優秀な人たちを確保するためにも、今までやってきたことを、今からもやらないといけないと考えています」

たしかに、欧米企業のようにドライになってしまうと現地での日本企業の魅力が薄れるかもしれません。

「欧米企業に比べて給与水準では時に見劣りすることがあっても、日本企業は歓迎されるやり方で進出してきました。近年、中国はアフリカ諸国のインフラ整備などに多額の投資をしていますが、感謝されるどころか軋轢を生み出しているのは、自国から現地に多くの労働者を連れて行って雇用を奪ってしまっているからです。雇用を生み出し人を育てるという日本式経営、日本のビジネスのあり方に、もっと自信を持てば良いのです」

企業によっては、従来の戦略だけで海外ビジネスを拡大することの難しさを感じているところもあるのではないでしょうか。

「海外企業を買収するという方法もありますが、日本企業同士の連携にも新天地があると思います。その1つが業種を超えた連携プレー、複数の日本企業によるコンソーシアム方式でのビジネスです。例えば日本の物流会社は素晴らしいノウハウを持っていますから、自動車メーカーと組んで自動車関連部品の流通を一貫してできる会社を作るとか、水道局や建設会社と組んで海水から真水化したものを各家庭まで届けるビジネスを始めるとか。必ずしも各分野で世界一でなくても、優れたノウハウを持っている企業同士が連携すれば良いのです」

「農業もそうで、生産と冷凍物流、加工、飲食などの企業が組んで大規模化すれば、輸出産業にできる可能性が十分にあります。現に世界には日本の農産品へのニーズがあり、60年代の日本で銀座千疋屋のメロンが1個1万円で売れていたように、中国では日本産の赤いリンゴに漢字を入れたものが、贈答用として高額で売れています。ある総合商社では、中国のリンゴ事業のために数名の部署を新たに立ち上げたほどです。TPPにしても、農産品の輸入関税が残る移行期間の間に日本の農業が力をつけていけば、過度に恐れる必要はないと考えています」

北京市内のデパートで販売されている絵文字入りの青森産りんご(青森りんご大学提供)

北京市内のデパートで販売されている絵文字入りの青森産りんご(青森りんご大学提供)

最後に、日本企業がさらにグローバル化を進める中で、どのような人材が求められるかを聞かせてください。

「日本企業でも、ある程度の規模の会社には各国でのビジネスに精通したスペシャリストがいますが、残念ながら米国、欧州、中国、インドの企業と比べると層が薄いと感じます。少子化が進むと、今まで日本人スタッフが5人いた海外部署を4人で回していけるようにしないといけません。語学も大事ですが、それ以上に大事なのは、多文化への理解と、中国人やインド人に引けを取らない交渉力です。その国のためにという視点も持って、海外で日本のビジネスの文化を広げていけるような若い人に育ってほしいと思います」

相原元八郎

PROFILE

相原元八郎(あいはら・げんぱちろう)

1943 年生まれ。67 年慶大法卒、三井物産入社。主に石油化学品分野に従事し、独デュッセルドルフ本店、米国三井物産副社長兼ヒューストン支店長を経て、2000 年に取締役に就任。02
年常務・中国総代表 在北京、06 年代表取締役副社長・アジア本部長 在シンガポール。08 年から 12 年まで APEC/ABAC 日本代表。現在は現役時代の経験を生かした講演などを通して、
海外進出を検討する日本企業の支援などを行っている。

荒木勇輝

PROFILE

荒木勇輝(あらき ゆうき)

=インタビュー、記事を担当。1984年京都府生まれ。2008年から13年まで日本経済新聞社に所属。東京本社、京都支社の記者として企業や大学、行政の取材を担当。現在は教育系インタビューサイト「eduview」(http://eduview.jp)を運営しながら、NPO法人の代表理事として現代の寺子屋「Tera school」の運営に関わっている。