Interview 

"ポスト・ミャンマー"時代の海外進出戦略を探る①

中国、インド…海外ビジネスの本当のリスクとは? ~APEC/ABAC元日本代表 相原元八郎氏に聞く

ライター
荒木勇輝
カメラマン
安藤史紘
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海外に進出する日本企業は年々増加しており、経済産業省の調査によると、2015 年3月時点の現地法人数は約24,000社となっている。進出先は中国や東南アジア諸国などアジア圏への進出が7割を占め、アジアへの進出は近年も大幅に増加している。これまでの海外進出の流れとして、日本企業は人件の安さなどを理由に国内から海外へ生産拠点を移すとともに、内需の縮小を見据えて新市場の開拓を模索してきた。当初は中国に多かった海外生産拠点を、タイ、ベトナム、インドネシア、バングラデシュ、ミャンマーなどに移す動きは現在も続いている。最後のフロンティアと呼ばれたミャンマーへの進出が一般的になった今、進出先の国々では何が起きているのか、そして今後の海外ビジネスはどのように変化していくのか。この連載では、主に国際機関や経済/企業関係者へのインタビューをもとに、''ポスト・ミャンマー時代’’に日本企業が向かうべき針路を探る。初回はAPEC/ABAC元日本代表の相原元八郎氏に、海外ビジネスにおける「リスク」の捉え方について聞いた。

「日本企業はどこに向かうのか」

日本企業が海外に持つ現地法人の業種分布(2015年3月度 (出所)経済産業省「海外事業活動基本調査概要」)

日本企業が海外に持つ現地法人の業種分布(2015年3月度 (出所)経済産業省「海外事業活動基本調査概要」)

相原さんは総合商社におられた時から海外経験が長いですね。この数十年で、日本企業の海外ビジネスの内容はどう変化してきたのでしょうか。

「私は 1976 年にドイツのデュッセルドルフに赴任したのですが、当時はヨーロッパのものを日本に輸入する仕事が多かったですね。特に石油化学製品については、日本が学んだ先がドイツでした。一方、カネカさんなどは立派に技術を確立し、ベルギーに大きな工場をつくって、ヨーロッパ全域への販売を始めていました。70 年代は、それまで欧米企業から学ぶ立場だった日本の企業が、技術的な意味で彼らにキャッチアップし、対等な競争相手と見なされるようになり始めた時代だったと思います。それ以降、日本企業は欧米を中心に生産・販売拠点を増やし、自国からの輸出とともに現地生産を拡大してきました」

日系企業の海外拠点数(出所)外務省「海外在留邦人数・進出日系企業数の調査」

日系企業の海外拠点数(出所)外務省「海外在留邦人数・進出日系企業数の調査」

景気の変動などによる波はあっても、日本企業の海外進出件数は年々増えています。この傾向は今後も続くのでしょうか。

「よく言われることですが、日本は資源のない国です。海底からメタンハイドレートを採掘するための研究もされていますが、現時点で実用化のめどが立っているわけではありません。当面は石油・天然ガス・ベースメタルやレアメタルといった資源を輸入しなくてはならず、当然お金がかかります。良いものを作って輸出し、原料代をまかなっていくという基本的なパターンは今後も変わらないでしょう。以前と変わったのは、アジア諸国の経済成長によって、日本発の製品を必要とする世界がすぐそこにあるということです」

政府の調査によると、現在は日本企業の海外拠点のうち半数弱が中国に集中しています。一方で、人件費の上昇などを受けて中国から拠点を移す企業も増えてきました。

「先ほどお話したように、日本企業の海外ビジネスは主に欧米で始まりましたが、生産コスト、特に人件費の低い国に拠点を移す動きは常に続いています。日本企業の進出先として中国が重要なのは変わりませんが、繊維産業などはペイしなくなり、特に人件費の高い沿岸部の生産拠点はまばらになっています。中国の沿岸部から内陸部に移すという方法もありますが、それは別の国に行くくらい大変なことですし、内陸部は地理的な面や行政の問題などでビジネスがやりにくいこともあるので、日本企業の場合はベトナムなどに生産拠点を移す例が多いですね」

それらの国でも人件費が上がってくると、企業が次の進出先として選ぶのはミャンマーやバングラデシュでしょうか。

「繊維に関しては、ベトナムの次はバングラデシュでしょう。ミャンマーはもう少し技術力が必要とされるものでも生産できると思います。ベトナムやミャンマーの人々はかつての日本のように勤勉な国民性を持っており、熟練工が育つ余地が大きいからです。もちろん、ベトナムやミャンマーでも人件費は年々上昇しています。自動車産業など付加価値の高い製造業では、そこから生産拠点を移すことを考えないといけないのはかなり先のことだと思いますが、繊維など人件費の比率が高い産業では厳しくなってくるかもしれません」

アジアの中では、日本企業がコストの安い国を求めて拠点を移す動きがミャンマーで一巡した感もあります。最終的にはアフリカに行くのではという見方もありますが、今後どのようになりそうですか。

「アフリカは政治的なリスクが大きすぎると私は見ています。今後の進出先として注目しているのは、南米のペルーと、やはりインドですね。日本企業がメキシコで生産して北米の市場へ、というパターンは自動車産業などですでに見られますが、ペルーで生産して北米や南米の市場へ、ということも一般的になってくると思います。また、ペルーはブラジルと同様に日本からの移民の歴史があり、現地の人々の日本に対する見方も好意的です」

ペルーは意外な印象ですが、お話を聞くとなるほどと思いました。インドはとにかく人件費が安いですし、市場としても成長が期待されていますね。

「インドの工場労働者の人件費は現在でも日本の数分の1です。また、専門職として働くスタッフはとても優秀で、特にITの分野では世界一なのではないでしょうか。ハイレベルな人材が、日本の新卒社員くらいの給与で雇えるわけです。しかし、インドの政治事情や地域性などを詳しく理解している日本人はほとんどいません。インドに限らず、アジアやアフリカの新興国に共通して言えることですが、人件費の安さだけを理由に進出していくと、本当に大きなリスクを抱えることになると思います」

相原元八郎

PROFILE

相原元八郎(あいはら・げんぱちろう)

1943 年生まれ。67 年慶大法卒、三井物産入社。主に石油化学品分野に従事し、独デュッセルドルフ本店、米国三井物産副社長兼ヒューストン支店長を経て、2000 年に取締役に就任。02
年常務・中国総代表 在北京、06 年代表取締役副社長・アジア本部長 在シンガポール。08 年から 12 年まで APEC/ABAC 日本代表。現在は現役時代の経験を生かした講演などを通して、
海外進出を検討する日本企業の支援などを行っている。

荒木勇輝

PROFILE

荒木勇輝(あらき ゆうき)

=インタビュー、記事を担当。1984年京都府生まれ。2008年から13年まで日本経済新聞社に所属。東京本社、京都支社の記者として企業や大学、行政の取材を担当。現在は教育系インタビューサイト「eduview」(http://eduview.jp)を運営しながら、NPO法人の代表理事として現代の寺子屋「Tera school」の運営に関わっている。