Interview 

異文化マネジメント最前線

世界の優秀なエンジニアを惹きつけてやまない会社の「異文化マネジメント」は何が違うか?

ライター
松尾美里
カメラマン
安藤史紘
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労働観、組織の指揮系統の違いを理解しているか?

こうした異文化マネジメントの知見が日本で広がらないのはなぜなのでしょうか。

実は僕が言っていることは目新しいことではなく、海外駐在を経験した日本の大企業の人たちは、こういう異文化マネジメントの知恵を、70年代頃から暗黙知として蓄積してきているはずです。人材の流動性が低く、大企業とベンチャーの人材交流があまり行われていないため、こういった暗黙知がベンチャーに一向に広がらず、双方の間に大きな距離があるのが今の日本の現状だと思います。

日本のベンチャーでは、ネットの技術も産業・マネタイズに関する知見も卓越しているものの、グローバル展開で現地のスタッフたちをマネジメントするためのノウハウという点では、まだまだ改善できるように思います。
具体的なノウハウとは、例えば労働観の違いにどう対処するか、といったことですね。僕が知る限り日本のベンチャーには、意外と日本的労働観というか、会社最優先的な空気があります。一方、アメリカ人は何よりも家族が大事。もちも子どもの迎えをすると奥さんと約束していたら、仕事よりそちらを優先して然りという価値観を持っています。「文化的背景によって、優先順位が違う」ことを受容できていればいいのですが、日本の労働観を現地のスタッフに押し付けてしまうと、信頼関係が崩れる原因になりかねません。

こうした価値観やノウハウが日本に普及していないと感じた具体的な経験はありましたか。

だいぶ昔の話ですが、ソニーでサウジアラビアとアラブ首長国連邦に駐在していたときに、組織観の違いを象徴するようなことがありました。僕が在籍していた部門はイギリス人が率いる英国子会社の直轄で、僕の直属の上司もイギリス人でした。もし東京の本社とイギリスの意見が違ったとき、組織の指揮系統として正しいのは”直属の上司の意見に従うこと”だと思うのですが、日本の本社の人たちの考えは違いました。僕に日本からの赴任者として振る舞うことを期待し、僕から上司を説得することを求めました。でも本社からの指示に従って上司を説得しようとすれば上司からはスパイ扱いされるに決まっています。結局僕は、現場の状況に即して自分の考えを確立し、両方からの指示がそれと合えば従うし、合わなければどちらに対しても反論する、という姿勢をとることにしました。

結果、本社の人達からは「本社の意見をなぜ聞かないのか」「何のために日本人を送ったと思ってるんだ」と非難されましたが、当時の僕のミッションは中近東で事業の立ち上げであり、それを果たすためにはそれしか無かったと思っています。これは古い話のようですが、今でも同じようなことが他の日本企業、ベンチャーでも起きているようですよ。

もうひとつ、指示系統に関するよくある失敗として、日本の本社から現地の関連会社に直接ヨコのつながりを使って仕事の依頼をするのは、ルール違反にあたります。本社から依頼をするときは、まずは現地スタッフの上司に相談し、上司からスタッフに指示がいくという流れを守るべきです。日本語を使える気安さからつい直接物事を頼んでしまいがちですが、レポートラインは組織を運営する要。それをすっ飛ばしてしまうと現地との軋轢が生まれます。

こうした欧米では当然の「組織のルール」が、多くの日本のベンチャーで理解されておらず、時に致命的な失敗を引き起こしているように感じています。組織のルールを知っていれば、グローバル展開をもっと優位に進めていけるはずなのに。そんなもどかしさが、『SONYとマッキンゼーとDeNAとシリコンバレーで学んだ グローバル・リーダーの流儀』を書く原動力になりました。ソニーやカネスタという、日本と海外の文化がまざり合った環境に身を置いていたからこそ、書けることがあると思ったのです。いくら優れた技術があっても、海外でのマネジメント経験や知見が蓄積されていないと、グローバルに勝負するのはなかなか難しいということでした。

こうした問題を解決するために、日本企業はどうすべきなのでしょうか。

やはり海外でのマネジメントの経験者を呼び込んでくる必要があると思います。そしてトップ自らが現場に乗り込む。よく、日本企業のトップが海外に行かずに、「グローバル担当」を別途設けることがありますが、トップ自身が海外で経験を積み、世界の市場が見えていないと、真のグローバル企業にはなり得ません。なぜなら、ある企業の売上の内訳が日本、アメリカ、中国で3分の1ずつだとしたら、トップの使う時間の配分も、その内訳に対応しなければならないからです。トヨタやキヤノンのように、グローバルに成功している企業のトップは世界の市場に対する目を養っています。だから、トップがグローバル・リーダーであることが、グローバル企業の必要条件なのです。

マネジメントの武器、「モチベーションの3つの源泉」とは?

森本さんが現在、エクスビジョンでのマネジメントで意識していることは何ですか。

僕の率いるチームは少人数ですし、COOという立場上、頻繁に直接エンジニアたちを管理する関係ではありません。ですが、今やっている作業が、会社全体のビジョン、そして戦略から導き出されたタスクであることを、ことあるごとに伝えるようにしています。むしろ、毎日顔を合わせて密に話すわけではないからこそ意識していますね。異文化の背景を持つエンジニアの多くは、「このタスクが何のためなのか」が明確でないと、仕事にコミットしてくれないからです。

僕自身、自分の仕事の先にある「大きな絵」が見えないと嫌でした。僕がマネジメントで手本にしているのは、カネスタ時代の上司です。日本において一人でカネスタの事業を立ち上げていた当時、アメリカから毎日電話をかけて、細かい営業の案件だけでなく、会社の方向性や戦略についても説明してくれました。現地に一人という孤独な環境にいた僕を気づかってくれたのでしょう。10分でも「大きな絵」について上司と直接話すと、物理的距離ゆえに会う回数はたとえ少なくても、ちょっとした違和感や疑問が解消され、会社がめざす方向性からずれないようになる。何より上司への信頼感が強まりました。こまめに話すことは本当に大事ですね。

社員のモチベーションを高めるために、マネジメントで心がけるべき点は何でしょうか。

モチベーションがONになるスイッチが、人によって違うということを理解することです。経験則として、モチベーションの源泉は次の3つに大別されます。
1つは、事業や技術、それがもたらすインパクトへの「好奇心」です。2つ目は、成功したい、お金をたくさん稼ぎたい、名声を得たいといった「野心」です。そして3つ目は、「正義感」です。正義感には「社会の役に立つ」という倫理的な正義感と、組織が決めたことだからやり遂げようという忠誠心に近い義務感の両方が含まれます。

例えば、日本人は好奇心と正義感は強いけれど、野心はあまりありません。またあっても表に出さないようにという価値観で育っています。一方、アメリカ人は好奇心と野心は強いし、社会に貢献したいという正義感はかなり強いものの、義務感は、組織に対してよりも、自分のミッションや役割に対して強く働きます。

もちろん、これは文化ごとの一般的な傾向ですが、「何にモチベートされるのか」は個人によって実に様々です。同じ日本人でも、とにかく仕事内容が面白ければ、激務も厭わない人もいれば、多少仕事がつまらなくても家族を大事にできる環境だから良しと考える人もいるわけです。よって、マネジメント側は自分のモチベーションが当たり前だと思わないようにしなければなりません。

何より、自社が提供するモチベーションと、社員がよりどころにしているモチベーションとの間にギャップが生まれないようにすることは、採用やブランディングにおいても非常に大事です。もちろん自社の価値観や方針に誠実であることは大前提ですが、好奇心、野心、正義感または義務感のうち、求める人材が大事にしているモチベーションにうまく訴えかけるという工夫が求められるのではないでしょうか。

森本 作也

PROFILE

森本 作也(もりもと さくや)

神戸大学経済学部卒業、ソニーに入社し、サウジアラビア、アラブ首長国連邦に駐在。その後、休職し米国スタンフォード大学経営大学院(MBA)に自費留学。修了後マッキンゼー&カンパニー東京オフィスに入社し、モバイルを含むハイテク関係のプロジェクトに従事。フィンランド駐在を経験した後、シリコンバレーに本拠を持つベンチャー、カネスタに入社。カネスタのマイクロソフトへの売却後、DeNAに入社。北米子会社であるDeNAグローバルにて新事業立ち上げなどを担当。DeNA退社後、東大情報理工学系石川・奥研究室のスピンアウトであるエクスビジョン株式会社取締役に就任。 著書に『SONYとマッキンゼーとDeNAとシリコンバレーで学んだ グローバル・リーダーの流儀』

松尾 美里

PROFILE

松尾 美里(まつお みさと)

日本インタビュアー協会認定インタビュアー/ライター。
教育出版社を経て、本の要約サイトを運営する株式会社フライヤーにて要約の執筆、編集、経営者や著者のインタビューを行う。(https://www.flierinc.com/features/list
起業家や人事専門家へのインタビュー記事も執筆中。ブログは「教育×キャリアインタビュー」(http://edu-serendipity.seesaa.net/)