Interview 

異文化マネジメント最前線

世界の優秀なエンジニアを惹きつけてやまない会社の「異文化マネジメント」は何が違うか?

ライター
松尾美里
カメラマン
安藤史紘
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「日本で育った人や組織が、海外で育った人や組織をリードしていく」、これは古くて新しい課題である。多くの日本企業が海外進出をしていくなか、「海外進出を安心して任せることができるマネジメント人材が不足している」という声は非常に多く聞かれる。
そこで本連載ではそもそも異文化マネジメントとは何か、異文化マネジメントがうまくいかない理由、どのような対処をすればいいのか、など焦点をあて、異文化マネジメントの経験者や有識者に対してインタビューを実施する。
第一回目のインタビュイーは『SONYとマッキンゼーとDeNAとシリコンバレーで学んだ グローバル・リーダーの流儀』を上梓された森本作也氏。
書籍を書くきっかけとなった日本企業が海外でビジネスをするにあたって感じた当時の問題意識と、株式会社エクスビジョン(http://exvision.co.jp/)での経験を踏まえ、異文化マネジメントで意識すべき点について伺った。

会社規模やステージによって変化する「ビジョンの重要度」

『SONYとマッキンゼーとDeNAとシリコンバレーで学んだ グローバル・リーダーの流儀』を上梓されてから3年が経ちました。出版した当時と、エクスビジョンのCOOをされている現在とでご自身の中で大きく変わったことは何でしたか。

この数年で東大発のベンチャーであるエクスビジョンで働いて、感じたのは、コーポレートビジョンの価値を再認識したということでしょうか。エクスビジョンは20数名のベンチャーですが、東京の本社とシリコンバレーのオフィスを構え、インドネシア、フランス、スペイン、中国と、実に多様な国籍、文化的バックグラウンドを持ったメンバーを抱えています。当初は「彼らを方向付けるビジョンを明確に言語化し、何度も彼らの前で語らないと」と思っていました。

ところが、東京で働くエンジニアたちの様子を見ていると、マネジメント層がビジョンを浸透させようと必死にならなくとも、彼らがもっと深いところでつながり、価値観を共有し合っていることに気づきました。

彼らは、この会社をつくったハイスピードビジョン(高速画像処理)の世界的権威、石川正俊の技術に心底惚れ込んでいます。他社の追随を許さない圧倒的なパフォーマンスを生み出す技術を核に、この分野を研究してきたエンジニアたちが入社してきているのです。彼らは「この技術を使って世界のコンピュータービジョン(画像処理)の世界を変革しよう」という思いを持っており、それが、ある種の共通言語になってくれている。だから、文化的背景が様々で、言葉の壁が多少あろうとも、エンジニアたちは同じベクトルに向かって邁進できるのです。もちろん喧々諤々の議論も、意見のぶつかり合いも日常茶飯事ですが、彼らのヨコのつながりは強いんです。そのおかげなのか、エンジニアたちの定着率が非常に高く、驚きましたね。

特に言語化されたビジョンがなくとも、優れた技術自体が求心力を持ち、組織がまとまった、ということでしょうか。

10年前、僕はシリコンバレーに拠点を置くカネスタというベンチャーにいましたが、そこでも同じようなことを感じていました。三次元センサーという「技術の破壊力」のようなものが、社員を一つの方向へと導く大事な指針となっていて、技術を浸透させようというベクトルが、自然とメンバーの結束を強めてくれていたんです。

ところが今、エクスビジョンは、過渡期を迎えています。これまではスマートTV向けジェスチャー認識技術の商品化という事業一本だったのですが、少しずつ他社と共同で別の技術を商品化する事業を手がけ始めています。小さな世帯で複数のプロジェクトを推進することは、リソースが分散し、戦略が曖昧になって危険です。エクスビジョンも、明確なコーポレートビジョンを持ち、それを常に語ることで組織の方向性を明確にし、やるべきこととやらないことを区別する段階に入ってきました。今こそ強力なビジョンが必要なんだと思います。


スマートTVに最適なジェスチャーUI 「エクスビジョン・ジェスチャー・システム (EGS)」

そのビジョンに、世界にどう貢献するかが明示されているか?

日本とシリコンバレーを比べて、ビジョンに対する違いはありますか。

僕が以前に働いていたソニーは設立趣意書に、「真面目なる技術者の技能を、最高度に発揮せしむべき自由豁達にして愉快なる理想工場の建設」という理念を掲げています。これは本当に素晴らしい理念ですし、当時の日本において多くの技術者の心をつかむことに成功しました。

ただ、今の時代に海外から優秀な人材を惹きつけるという観点に立つと、一つ足りないものがあります。それは、「世界に対してどんな価値やインパクトを提供したいのか」という点です。
アップルやグーグルのような古参だけでなく、ネットフリックスやAirbnbなどの新興企業でも、世界の覇者となっているグローバル企業のビジョンには、「世界にどう貢献するか」が必ず謳われています。それもどの会社にでも当てはまるような一般的な言葉ではなく、自社固有の言葉です。例えばグーグルの場合は「世界の情報を誰でもアクセスできるように、徹底的に整理する」と謳っているし、フェイスブックは「誰もが安心して情報を共有できる、オープンでつながりのある世界をつくる」と述べています。

シリコンバレーの会社ではありませんが、アマゾンのビジョンは「地上で最も消費者を大事にする会社、そして人々がオンラインで買いたいと思うものはどんなものでも買えるお店(エブリシング・ストア)を作る」というもの。このビジョンに共感した優秀な人材が世界から殺到するわけです。そのビジョンを実現するために、ジェフ・ベゾスによる「14箇条の信条」が徹底されています。どんな意思決定の場でも、「Customer Obsession(顧客志向)」などの原則に沿って決断が下されます。これは多くの日本企業も採用しています行動規範のようなもので、ビジョンとはもう一段上位レベルの、スタッフの心を掻き立てるような方向性のことです。

日本人は組織への忠誠心が強いので、日本人だけを束ねるのであれば、敢えて強力な磁石となるビジョンがなくても組織力は生まれるかもしれません。ですが、組織やチームに異文化のバックグラウンドを持つ人が入ってきたら、「何のためにこの事業をやっているのか」「それが世界に対してどう貢献するのか」を語らないと、彼らをエンパワー(力づける)することは不可能です。とりわけシリコンバレーのエンジニアたちには、その傾向が顕著です。採用面接の場でも彼らは「あなたの会社は何をしていきたいのか」と、具体的な答えを迫ってきますから。

グローバル企業が、世界の人材を惹きつけるビジョンをつくり、それを自社や世の中に浸透させることができている理由は何でしょうか。

アメリカの学校教育を見ていると、小さい頃から自己主張をし、相手を説得して合意形成に導く、リーダーシップ・トレーニングが盛んに行われています。日本人は往々にして自己主張が苦手だし、議論と聞くとどちらが正しいかを競い、相手を打ち負かすものだという意識になってしまう。先生やリーダーに面と向かって鋭い質問や意見を言うことに抵抗があるので議論は避ける。納得しなかったり、明解でなかったりしても否定はせず、その場でなんとなく同意した素振りをしていながら、あとで文句をいう人がでてくる。

一方、アメリカでは、「私もあなたも正しいし合理的である」という前提のもと、「いずれの意見が、「目的を果たす上でより有効か」「より多くの人に受けいれられるか」を決めていく、というスタンスです。だから、それぞれの主張をぶつけていって、お互いが納得できる落としどころを見つけていくんです。そしてグループで最も説得力のある人がリーダーになります。また意見を言わないことは同意とみなされるので、決まったことには従わなければいけない。こうした議論の仕方を中等・高等教育で教わるので、自己主張力、説得力、リーダーシップが徹底的に鍛えられ、社会に出てからも抵抗なく議論できるのです。

もちろん、合意にいたるまでのプロセスは大変ですし、時間もかかります。ですが、いったん強いリーダーシップの元に全体の合意が得られれば、あとは決まった方針に基づいて判断すればいいので、メンバーは動きやすいんです。だから、衝突を恐れて議論を避け、「何となくわかり合う」という日本のスタイルは、日本人グループにしか通用しない手法なので、そのままだとダイバーシティはなかなか進まないと思いますね。

森本 作也

PROFILE

森本 作也(もりもと さくや)

神戸大学経済学部卒業、ソニーに入社し、サウジアラビア、アラブ首長国連邦に駐在。その後、休職し米国スタンフォード大学経営大学院(MBA)に自費留学。修了後マッキンゼー&カンパニー東京オフィスに入社し、モバイルを含むハイテク関係のプロジェクトに従事。フィンランド駐在を経験した後、シリコンバレーに本拠を持つベンチャー、カネスタに入社。カネスタのマイクロソフトへの売却後、DeNAに入社。北米子会社であるDeNAグローバルにて新事業立ち上げなどを担当。DeNA退社後、東大情報理工学系石川・奥研究室のスピンアウトであるエクスビジョン株式会社取締役に就任。 著書に『SONYとマッキンゼーとDeNAとシリコンバレーで学んだ グローバル・リーダーの流儀』

松尾 美里

PROFILE

松尾 美里(まつお みさと)

日本インタビュアー協会認定インタビュアー/ライター。
教育出版社を経て、本の要約サイトを運営する株式会社フライヤーにて要約の執筆、編集、経営者や著者のインタビューを行う。(https://www.flierinc.com/features/list
起業家や人事専門家へのインタビュー記事も執筆中。ブログは「教育×キャリアインタビュー」(http://edu-serendipity.seesaa.net/)

上場企業役員OB、グローバル企業のエグゼクティブ出身の
グローバルビジネスのエキスパートが、
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