Interview 

生涯現役のキャリアプラン

年金受給額を42%増やすための「定年後起業」という選択

ライター
佐々木正孝
カメラマン
安藤 史紘
このエントリーをはてなブックマークに追加
LINEで送る

高齢化が進む中、現役でバリバリと働き続ける高齢就労者が増えている。定年の延長、年金支給年齢の引き上げといった様々な関心事がある中、ビジネスパーソンはセカンドキャリアをどのように築いていくべきなのか。

生涯を通したキャリアパスを構築し、理想的なシニアライフを送っていくためには、ワークスタイルだけではなくマネー、ネットワーク、マインドなど、様々な要素を視野に入れ、俯瞰して考えていく必要がある。
楽しく、いきいきとした定年ライフ「定年楽園」を提唱する経済コラムニストの大江英樹氏にご登場いただき、生涯現役キャリアの作り方を指南していただこう。

※グローバルビジネスジャーナルを運営するサイエスト株式会社では、海外ビジネスに特化した顧問派遣サービス「グローバル顧問」を通じて、働くシニアの定年後のキャリア形成をお手伝いいたします。

老後が不安? だったら老後をなくせばいい

「老後破産」「下流老人」――メディアは危機感を煽るフレーズをヘッドラインに流し続ける。高齢社会になって久しい日本では、誰もが漠然とした「老後への不安」を抱き続けている。「生涯現役キャリア」を明確に打ち立てていくためには、これらの漠然とした不安を可視化するのが先決になるだろう。

シニア層のセカンドライフプランニングを手がける大江氏によると、老後の不安は「お金」「健康」「孤独」が三大要素だという。

「老後? まったく不安じゃないよ。こう言い切れる人は1人もいないでしょう。私はセカンドライフプランニングをテーマに執筆、講演活動を行ってきていますが、この『お金』『健康』『孤独』については、各論で様々な課題解決が考えられるでしょう。しかし、この三大不安はまったく別個のものではありません。

たとえば、病気になると働けなくなり、収入の不安に直結する。同時に社会との接点がなくなり、孤独につながります。三大不安はそれぞれが関連し合っているのです」

漠然とした不安をひも解くと現れる、複雑に絡み合った三大不安要素。しかし、この老後の不安を解消する方法がある、と大江氏は力説する。それは意外に単純で、そしてセカンドライフの芯を突くものだった。

「そう、答えはシンプルです。老後が不安だったら、老後をなくせばいいのです。人が働くことを止めた時。それが老後のスタートです。働くことを止めたらお金が入ってこなくなり、キャッシュフローがなくなります。働くことがもたらしていた適度な緊張、充実したモチベーションがなくなれば、精神面、そして健康上にも不安が生まれるでしょう。人付き合いも少なくなることで孤独にも直結します。

三大不安を解消するのは働くことです。そして、働き続けることで老後がなくなる。つまり、老後の不安もなくなるのです。このように、このように、働き続けることこそ、老後の不安を一気に解決するベストな方法なのです。年をとっても、働くのを止めてはいけない。これが私の基本的な考え方なのです」

最大で42%も年金がアップ!?
年金の繰り上げ、繰り下げ支給がもたらすメリット&デメリット

jyumyo

公的年金は現在65歳からの受給に移行しつつある。その中でも最もベーシックな国民年金は昭和36年(1961年)にスタートした。

その時点では受け取り開始の年齢は60歳からであった。ところが、ここで昭和35年(1960年)の日本人の平均寿命を見てみよう。

男性の平均寿命 65.32歳
女性の平均寿命 70.19歳

何と、年金が支給開始になっておよそ5年後には半数の男性は亡くなっていたのだ。つまり年金制度というのは人生の晩年の時期の生活保障を賄うというのが本来の役割なのである。
ところが今、すなわち平成27年(2015年)時点での平均寿命はどうなっているだろうか。私たち日本人の暮らしは豊かになり、必然的に長寿命化が進んだ。

男性の平均寿命 80.79歳
女性の平均寿命 87.05歳

こういう時代になったのであるから年金支給開始年齢が本来の60歳から65歳になるのはある意味当然である。にもかかわらず「元々60歳から貰えた年金が5年も先延ばしされるのは嫌だ」ということで中には60歳からの繰り上げ支給を選ぶ人もいる。しかしながら繰り上げて支給を受けるのは本当に得なのだろうか?否、むしろ繰り下げて70歳から受け取るのがベストだ、と大江氏はアドバイスする。

jyukyu

「繰り上げ支給の場合は、通常の受け取り開始年齢よりも支給額が少なくなるんです。どれぐらいかというと、5年早めて60歳から受け取ったら、0.5%×12カ月×5年=30%、すなわち65歳からの5年に比べて、年金支給額は3割も減ってしまいます。さらに、いったん繰り上げ支給を利用すると、減額された金額が生涯にわたって続くのです」

つまり、長寿命に繰り上げ支給を受けたら長生きするほど損になる、ということ。では逆に、大江氏も申請しようとしているという繰り下げ受給はどうなのか。

「私自身、現在は64歳ですが来年から支給される年金を受け取らず、70歳からの支給にしようと思っています。ここには知られざるメリットがあります。支給を1か月遅らせるごとに年金支給額は0.7%ずつ増えていきますから、70歳まで5年間遅らせると、0.7%×12カ月×5年=42%。何と65歳から5年間に比べ、受け取る年金額が4割以上も増えるのです。もちろん、これも繰り上げ支給と同様、生涯にわたって増額が続きます」

整理しよう。65歳から支給される年金額が年間200万円だとしたら、60歳に繰り上げたら支給額は年間140万円になり、70歳に繰り下げると年間284万円になる、ということだ。価格の変動リスクがない以上、これほど有利な資産運用法はない。

「もちろん、その場合は年金を70歳まで受け取ることができませんから、65歳から70歳まで5年間の生活費をどうするかを考える必要があります。貯金を取り崩して食べていくか、働くか――? 私は先述の通り、働き続けることを提唱したい。働き続けることで老後の不安をなくすと言いましたが、年金を増額して老後生活をより豊かにするためにも、働き続けることがベストな方策になるのです」

65歳からバリバリ働くために――再雇用はありか、なしか

60歳、65歳以降もバリバリ働き続けることが老後の不安をなくし、安定したキャッシュフローにもつながることは分かった。では、その生涯現役キャリアを考える上で、どのようなスタイルが考えられるのか。大江氏は3つの選択肢を挙げる。

「自営業などの方は除いて、多くの方が該当するであろうビジネスパーソン、会社員が退職したら、働き方は3つしかありません。

1. 再雇用制度を利用して、今まで勤めていた会社に勤め続ける
2. 他の会社に転職する
3. 起業する

このうち、最も多くの人は1を選択するでしょう。一般的に、1-2-3の順で簡単だと思われています。しかし、私に言わせればそれはまったく違います。3-2-1、つまり起業が最もベストな選択肢になります。起業については項を改めたいと思いますが、まずは再雇用の問題点についてお話しましょう」

大江氏自身、勤務先を退職後、起業するまでの半年間ほど再雇用で働いた経験があるという。その実体験からしても「再雇用は必ずしもベストなプログラムではない」と述懐する。その真意は?

「再雇用制度の問題は大きく分けて2つあります。まず、本人のマインドと職場環境の空気に沈滞をもたらしてしまう問題です。

人間のマインドというものは、それほど簡単に変えられるものではありません。管理職であった人ほど、『自分はマネジメント側だったのだ』という思いを捨てられない。再雇用の立場は派遣社員、パート社員と一緒なんです。しかし、それが理解できない」

大江氏は、「再雇用なので部長から一兵卒になりました。お茶くみもコピーもトナー交換もやります」とかつての部下の前で宣言し、実際にこまごまとした作業にも従事したという。しかし、そこまで割り切って仕事に臨める人は多くはないだろう。また、本人がマインドを切り替えられたとしても、部下ら周囲の社員が切り替えるのは至難の業だ。

「そうなんです。いくらお茶くみをやるといっても、かつての上司にそれを頼める部下はいないでしょう。つまり、いくら本人が割り切っても周囲に気を遣わせ、迷惑をかけてしまうのは避けられない。このことを悟った私は、一刻も早く辞めようと思いました。これが再雇用の問題の第一点です」

2つめは「責任と権限が曖昧になる」問題だ。会社員が仕事に臨む上でモチベーションの原点になるのは、必ずしも報酬だけではない。部下が増え、差配する範囲も増えていくこと、つまり責任と権限の範囲が拡大していくことが最大のインセンティブになる。しかし、再雇用の場合は責任も権限も格段に縮小してしまう。いや、それだけではない。「責任と権限すら明確に示してもらえないことが多い」と大江氏は振り返る。

「私は再雇用に際して、『管理職時代と立場が全然違うのは分かりますが、どこまで責任を負い、権限を持たせてもらえるのでしょうか』と人事部に尋ねてみました。すると、担当者は『大江さん、そんな難しく考えなくてもゆったりやってくれたらいいですよ』と言いました。とにかく、目立ったことはしないで、おとなしくしていてほしい。それが再雇用社員に対する企業側の本音なのだな、ということが分かりますよね。

それはそれで割り切って、のんびりと新聞や本でもを読んで日がなデスクに座っているのも、一つの考え方かもしれません。しかし、そんな状態で5年間もゴロゴロしていたら、ビジネスパーソンとしてはまったく使い物にならなくなってしまうでしょう。65歳まで職場に居残ったとして、そこから70歳までの5年間、心身共に元気で働けるとは到底思えません。今、70歳を越えてもバリバリ働いている高齢就業者はたくさんいます。その人たちに伍して働いていくためには、無為の5年間を再雇用で過ごすのは大変もったいない、と私は思うのです」

大江英樹

PROFILE

大江英樹(おおえひでき)

会社員時代は野村証券で個人の資産運用や確定拠出年金加入者の投資教育に携わる。
同社を退職後。2012年にオフィス・リベルタスを設立。
シニアのセカンドライフ、マネーライフについて執筆、講演活動などを行っている。著書『定年楽園』(きんざい)も好評。

上場企業役員OB、グローバル企業のエグゼクティブ出身の
グローバルビジネスのエキスパートが、
貴社の海外ビジネスを実行支援型で支援いたします。

海外進出支援に特化した、顧問派遣サービス

お問合せ・ご相談 顧問登録