Interview 

生涯現役のキャリアプラン

定年後の仕事を作る。 「現役時代の自信過剰、退職時の自信喪失」を解消する方法。

ライター
佐々木正孝
カメラマン
安藤 史紘
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定年退職後に起業する人は増加の一途。しかも、シニア人材を活用する動きは活発で、起業を後押しする下地は整っている。他方で、「サラリーマンとして数十年以上も働いてきたが、独立して仕事を獲得できる特殊なスキルはない」と思っているビジネスパーソンも多い。楽しく元気に働くシニア起業家は枚挙にいとまがないが、二の足を踏んでしまう人が多いのも現実なのだ。

楽しく、いきいきとした定年ライフ「定年楽園」を提唱するオフィス・リベルタスの大江英樹氏は「多くのビジネスパーソンはエクスパティーズ(熟練した技能)を持っている」と断言。その能力を適切にアピールすることで定年後の起業、転職は確実に有利になる、と語る。人が最もやりがいを感じられるのは、自分の能力を発揮できるときだ。「やれる仕事」ではなく、「やりたい+能力が生かせる仕事」へ。好きなことに取り組んで、しかも世の中の役に立つ――シニアの理想的なワークライフについて、大江氏に視座を示していただこう。

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「あなたは何ができますか?」「わたしは部長ができます」

 シニア人材の採用にまつわる笑い話を聞いたことがあるだろうか。
とあるシニア社員が再就職支援の人材会社に登録に行った時、担当者から「あなたは何ができますか?」と問われ、「部長ができます」と答えた、という話だ。特段のスキルがない管理職を揶揄したジョークとして知られている。シニア層のセカンドライフプランニングを手がける大江氏は、「一時期の日本企業に顕著だった『ゼネラリスト志向』を象徴しているとも言われますが、これはあくまで笑い話として語られるべき。ビジネスパーソンは、自分では気づいていないかもしれませんが、立派なエクスパティーズ(熟練した技能)を持っていると思うからです」

 とはいえ、退職のデッドラインが近づくと、自信喪失に陥りがちなビジネスパーソンも少なくないという。現役バリバリの頃は「俺の評価はもっと高いはずだ。人事は俺のことを全然分かっていない!」と鼻息を荒くしつつ、退職が近づくと「所詮、俺はサラリーマンだから。特殊な能力は何もないよ」というパターンだ。これを大江氏は「現役時代の自信過剰、退職時の自信喪失」と表現する。

「こういった人たちの気持ちはよく分かります。私自身、一つの会社で定年まで勤め、転職経験はありませんから。人は実際の能力とは関係なく、『自分の能力は正当に評価されていない』と思いがち。これはそれまでの勤務生活で積み重ねてきた経験値、業界知識、成功体験などに由来します。ところが、退職する段になって、会社と違う環境で働くことを想像すると、とたんに不安になる。これまでと違う環境で自分が本当に通用するかが分からないからです。
しかし、先述の経験値、業界知識、成功体験があるなら、大いに自信を持つべきです。さらに言うなら、自分の持っている能力を正確に認識し、正しくアピールしていったらいい。ところが、多くの人は自信喪失に陥ることからも分かるように、自己の能力を正しく把握していません」

 ならば、何を行ったらいいのか。シニアおよびシニア予備軍が定年・退職に備え、キャリアをどう考えておくべきなのか。大江氏が推奨するのは自分の能力の棚卸しだ。営業、経理、法務、技術などなど、ビジネスパーソンは勤め上げた会社で積んだ実績を一つ一つ分析し、能力と経験値を正しく認識すべきなのだ。

「ここで冒頭の笑い話を思い出してください。『あなたは何ができますか?』という問いに、『部長が』ではなく、何ができるのかを話せるよう、自分を知っておくことが大事なんです。現役時代は組織が決定したことに従って動いていればよかった。しかし、一人で立つとなると、“自分ができること”を独力でアピールしなければいけません。自分で自分のエクスパティーズを見せていかなければ、誰も認めてくれないのです。しかし、評価とは人がするもの。会社の中での評価は会社の中のことでしかありません。外の人が自分に対してどう評価するかが分からなければ、自分の能力はいつまでたっても理解できないんです。飛び出す時に備えて、外の人間関係に目を向け、準備をしておかなければなりません」

本当の人脈とは、ビジネス交流会では絶対に見つからないもの

 自分の能力を棚卸しすることの重要性は分かった。そして、社外に出るなら、そこで通用するかの評価は社外でしか得られないということも。そこで必要なのが「人脈」だと大江氏は説く。社外における自分を正しく評価してくれるのは、社外の人脈があってこそ。そしてまた、起業するにしろ、転職するにしろ顧客が必要だ。その礎となるのも人脈なのである。

「ここで強調したいことがあります。社外に知り合いが多い、名刺の数が多い。これは人脈とはまったく関係ないことなんです。『人脈』とは、『あなたの能力をちゃんと理解している人。あなたは何ができ、何ができないかを知っている人』のことです。会社に勤めている時はあなたの同僚、上司、部下がみんな人脈ですね。だけどその人脈は会社を辞めたらなくなってしまいます。だから、会社を辞めた後も自分の能力をちゃんと理解している人たち周りに置かなければいけません。このプロセスが『人脈作り』なのです」

 定年後も仕事をしたいと考えるなら、ビジネスにおける自分を評価してくれる人脈を作らなければならない。では、どうやって? 異業種ビジネス交流会など、カジュアルに利用できる外部サービスなども視野に入る。このようなサービスを積極的に利用していくべきなのだろうか。

「私自身の見解としては、ビジネス交流会のような会合は何の役にも立ちません。私も事務所を立ち上げたばかりの頃、何回か誘われて行って、名刺を一生懸命配って“交流”したこともあります。独立したてですから人脈が欲しかったですからね。だけど、そこで人脈ができたか? 答えはNOです。名刺を浪費しただけならまだ良かった。翌日からは、電話とメールの嵐で、なかなか仕事に集中できない、という困った状況になりました。それは当たり前ですよね。そのような会に出てくる方の多くのねらいは営業です。商売のきっかけをつかみたいと思って来ているわけですから、交換した名刺にメールや電話で営業攻勢をかけるのは自然な流れです」

 ここで、「人脈」の定義をもう一度振り返ってみよう。人脈とは、「あなたの能力をちゃんと理解している人」。あなたの能力に信用を置き、一緒に仕事をするに足ると考えてくれる人だ。そのような関係が名刺交換をして、ほんの少し会話をしただけでできるはずもない。SNSが隆盛となり、顔の広さ、つながりの多さが強みを発揮していると思われがちな時代だ。しかし、会食などの交流を超えて実際に仕事の発注に結びつくのは、あくまで「能力を正確に把握している人」との関係性に他ならない。

定年後のために、50歳を過ぎたら社外に関係を広げる

「能力を正確に把握している人」とのつながり、人脈の構築はどう考えていったらいいのか。大江氏は、人付き合いのスタイルに目を向けた。定年後を見すえて、人脈が社内に限定されないよう意識していくべきだ、と提言する。

「私は、ビジネスパーソンには『50歳を過ぎたら、会社の人間と付き合うのはやめなさい。外の人といっぱい付き合うようにしなさい』とよく言うんです。ただ、それは社外の人と飲む機会を増やせ、という単純な問題ではありません。趣味の集まりや勉強会、単なる食事会でもいい。普通にコミュニケーションできる場にメンバーの一人として参加するようにするのです。そうして関係性を作っていくと、あなたが持っている知見や技術を生かせるきっかけが出てくるでしょう。ここで持っておくべきマインドが『2ギブ&1テイク』です」

 巷間よく言われる「ギブ&テイク」ではない。ギブを一つ多く載せた、その真意とは。

「『ギブ』が相手のメリットになるだけではありません。得意なことを自分自身で知るチャンスにもなるからです。ただ、『あなたの得意分野は何ですか?』って急に言われても考えつかないものです。
しかし、『税務署に行ったら認めてもらえなくて困っているんですよね』とか、『飛び込みで営業に行ったら断られちゃって』とか、ふと聞いたらどうですか? 『税務なら詳しいから、ちょっと話を聞かせてくれる?』とか『いきなり飛び込みは断られてもしょうがないよ。事前にどんなことをしてたの?』など、あなたが知見を持ち、経験を重ねてきた分野の話題に、ふと意見できることもあるでしょう。
困っていた相手の課題を解決してあげて、感謝される。得意な能力、経験値がこうして可視化されます。自分からいきなりギブしようと思っても出てこないものなのです」

 こうして、小さな課題解決と感謝を繰り返すうち、「あなたの得意分野をしっかりと理解してくれる」人脈が形成されていく。そうした地道な営為の先に、退職起業後の豊かな人間関係があるのだ。大江氏自身、野村證券時代の経験を話していくうちに投資信託のセミナーを依頼されたことで、仕事がどんどん広がっていった経験があるという。楽しみながら、焦らずにギブを重ねていく。人脈作りは短兵急にではなく、ロングレンジで考えていきたい。

「これは定年後起業に限らず、ビジネスを成功させるための要諦です。無理をしない範囲で、マメに人間関係を作っていく。結局、ビジネスは最終的には人と人とのつながりですから。ビジネス交流会に参加したら、てっとり早く仕事につながるだろう。こんな発想では、いつまでたっても人脈はできていきません」

大江英樹

PROFILE

大江英樹(おおえひでき)

会社員時代は野村証券で個人の資産運用や確定拠出年金加入者の投資教育に携わる。
同社を退職後。2012年にオフィス・リベルタスを設立。
シニアのセカンドライフ、マネーライフについて執筆、講演活動などを行っている。著書『定年楽園』(きんざい)も好評。

上場企業役員OB、グローバル企業のエグゼクティブ出身の
グローバルビジネスのエキスパートが、
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